茶の湯の稽古に通っていると、「抹茶を点てる時にはこういう手順をとらなくてはならない」とお点前に囚われすぎて、逆に「気軽に家で抹茶を飲む」ということから遠のいてしまうことがあります。以前の私がそうでした。
- 抹茶は棗(茶器)から茶杓を使ってすくうもの。
- 簡単に…と言ったら盆点前?それなら、丸盆の上に、茶巾・茶筌・茶杓をしくんだ茶碗、抹茶を掃いた棗を置いて用意して…。だけど、お点前のどの辺から切り取るように抹茶を点てればいいの?
- 点てるまでの用意に手間がかかりすぎる!めんどくさっ。
と、茶の湯に囚われすぎてハードルを上げてしまっていました。
一度、茶の湯から離れて、頭をリセットしてみます。
家で抹茶を点てて飲む目的は、
ただ「抹茶を最も美味しい状態で飲むこと」に尽きる。
そのためには、
- 道具の使い方や特性を知り正しく使う
- 抹茶の性質を理解して、その特徴を最大限活かせるように点てる
- 家にあるもので代用できるものはそれを使う(道具の見立て)
という3つにポイントをおいて、私が家で抹茶を飲む時にしている方法をご紹介したいと思います。茶の湯を知る方の中には「そんなの邪道だわ」と思う方もいるかも知れませんが、茶道ではないので悪しからず。
抹茶を点てるのに必要なものは、
- 抹茶
- お湯
- 茶碗(またはお椀、カフェオレボールなど)
- 茶筌
- 茶杓(または抹茶をすくえるもの、スプーンなど)
- 茶こし(あれば)
以上です。棗や茶巾、丸盆、帛紗…必要ありません。
※この時は漆塗りの大きめのお椀を使いました。
抹茶(薄茶)を点てる方法
- 水を入れたマグカップの中に、茶筌を浸す
- やかんで湯を沸かす
- やかんのお湯を茶碗に移し、温める
- 茶碗の上で茶こしを使い抹茶を濾す
- やかんの湯(60〜70cc)をカップに注ぎ、その湯を茶碗に移す
- 茶筌を使って抹茶を点てる
1.水を入れたマグカップの中に、茶筌を浸す
茶筌は竹でできています。水分を含まない状態で、いきなり熱いお湯で抹茶を点てようと振ると、穂先が折れたり傷んだりしてしまいます。たっぷりの水にしっかり浸して、茶筌がこれから働く準備をしてあげます。
なお、お湯に浸すと茶筌のカーブがとれてしまうことがあるので、浸すのは常温水か冷水にしてあげてください。(使用後に洗うときも常温水で、洗剤などは使いません。)
2.やかんで湯を沸かす
家で抹茶を飲むのに茶釜は必要ありません。普段使っているやかんに水をはり、沸騰させます。
3.やかんのお湯を茶碗に移し、温める
抹茶を点てるためのお湯を冷たい茶碗に注ぐと、熱が奪われ湯の温度が下がってしまいます。茶碗を温めておくとそれが防げて、狙った温度の抹茶が点てられます。温まったら湯を捨て、軽く茶碗を拭いておきます。
4.茶碗の上で茶こしを使い抹茶を濾す
茶杓1杯半(なければ小さじ1位)をすくい、茶碗の上で茶こしで濾します。
私は水屋道具と割り切った茶杓を使って濾しています。銘のあるような茶杓ではないので、茶杓を抹茶篩の竹べらのように使います。
茶の湯の時は、事前に抹茶をまとめて抹茶篩を使ってふるっています。その空気を含んだサラサラの抹茶を茶器に掃いています。
家で点てるときの抹茶は、購入した袋から直接すくい入れ、保存もその袋のまま常温でしています。できるだけ空気に触れないことと、温度の変化や光を避けることが抹茶の劣化を防ぐのに有効だからです。
茶碗の上で濾す理由は、抹茶のダマをできるだけ作らないようにするためです。抹茶は静電気によりダマができるので、そのダマをできるだけ作らない状態で湯を注ぐのがポイントです。
抹茶は茶葉の粉末です。茶筌により攪拌されて茶葉に含まれた成分の一部が湯に溶け出ることはあっても、砂糖のように全部の抹茶が湯に溶けることはありません。
ダマの上に湯を注ぐと、水分を含んで余計に結束してダマはダマのままで残り、口当たりの悪い抹茶に仕上がってしまいます。(小麦粉を想像してください)
残念ながら、茶筌でダマがすぐに解けることはそうありません。(それを狙って時間をかけて撹拌続けるとエグい味になってしまうのでそれは避けたいところ)そのため、最初からダマを作らないようにすることが大切だと考えています。
5.やかんの湯(60〜70cc)をカップに注ぎ、その湯を茶碗に移す
湯の温度が高すぎると渋みの強い抹茶に仕上がるので、カップに一度移して湯の温度を和らげてから茶碗に移しています。また、熱々すぎても温くても抹茶に細かな泡が立ち辛いように感じます。80度前後の湯が丁度いいように思います。
ただ…以前、年配の友人にそのようにして点てた抹茶をお出ししたら「美味しいけど、私は熱々の渋い抹茶が好きなの」と言われたことがありまして。「そうなの?それならば…」と、熱々の湯で点て直したことがあります。なので、これもまた好みです。
6.茶筌を使って抹茶を点てる
茶筌を振ります。縦に川を描くように10〜15秒くらいで仕上げたいところ。
卵を溶く時を想像してください。箸をクルクル回すだけでは容器の中で卵が回転するだけで、白味は切れずなかなか卵は混ざりません。縦に白味を切るように箸を動かすと、時間をかけずに卵も均一に混ざります。その感覚で、手早く力まず茶筌を振り撹拌します。
最後に上の方、表面にできた泡を穂先で調整し茶筌を引き上げます。
流派によってこの泡の量を写真のように表面が覆われるくらいたっぷり点てるか、茶碗の中に陸と海ができているかのように泡の割合を少なめにスッキリ点てるか…点て方の好みが違います。
泡の量により飲んだときの口当たり、旨みや渋みの感じ方が変わるのもたしか。私は後者を好みとする表千家ですが、家では一緒に頂くお菓子やその日の気分で仕上げを変えたりしています。
長々と書きましたが、やかんの湯が沸いたら、抹茶が飲めるまでに1分前後で仕上がるかと思います。
抹茶は茶殻もでないし、必要な道具の数も少なく、手入れの手間もかかりません。「茶の湯」から意識を離してみたら、インスタントで気軽につくれる飲み物でした。